石積みワークショップでは、実際に石垣を修復してもらいながら、技術やセオリーを学んでもらいます。ここで学ぶ、コンクリートやモルタルといった接着素材を用いない「空石積み」という工法は、地域固有の景観を生み出すばかりでなく、持続可能性の面でも、コンクリート擁壁に比べて次にあげるような大きな利点があります。
①産業廃棄物を出さない・・・石垣が崩れても、積み直しの際には再び材料となる。
②すぐれた排水機能・・・パイプからしか排水しないコンクリート擁壁と違って、全面に排水機能を有する。それゆえ、大雨にも強い。
③生物多様性を生み出す・・・優れた排水性・通気性によって、石垣の内側の土壌と外側の世界は分断されず、積み石どうしの隙間には、虫やヘビ、トカゲなど、様々な生物が生息する。
④二酸化炭素を排出しない・・・コンクリートの製造過程では大量の二酸化炭素が排出されるが、「空石積み」にはそれが全くない。
どれも、現代に求められる価値ではないでしょうか。石積みの継承は、こうした価値観を共有していくことにもつながると考えます。
崩れかけた石垣が修復されると、集落の印象が明るくなります。そればかりでなく、その過程で現場をのぞき込む人が現れます。参加者にとっても、自分が手入れに加わったことで、その景観の当事者なのだ、という意識が芽生えます。これは、まちつくりにおいて、地域の活気につながる大きな出来事ではないでしょうか。
山の斜面を削って段々畑を築き、土留のための石垣を積み上げる。山村暮らしの中で当たり前に引き継がれてきたはずの、この文化的で、持続的な土木技術の普及を通じて、単なる懐古の念からではなく、未来志向の価値を、みんなと一緒に見出していきたいと思います。