まちつくり

日本ミツバチが騒ぎ出せば、山の新緑が碧みを増す。雨上がりに風が吹けば、山そのものが揺れているようだ。人の住む地が標高差600mの範囲に点在するこの谷あいでは、桜が長く楽しめる。終わりかけた季節であっても、また別の旬を味わえる。

田植え、茶摘みはみんなでやるもの。うちが済んだらあんたのとこだ。結がぐるぐる回って、カイトの野菜も順調だ。

学校終わっても、家への戻りは日が沈む頃。川原の石で暖をとって、しっかり仕掛けてきた。まだ懐中電灯が要る時間から覗きに行けば、おー、おー、ウナギがかかってる。ヤマメ、ウグイ、カジカもひっ提げて、兄は調子よくヒーロー気取り、ワタ抜き係の妹は毎日ウンザリ「もうやめて!」。

盆が過ぎたら秋の風。畑の大豆がよく太ったじゃん。豆腐作りが楽しみじゃん。巣箱の蜜もたっぷりじゃん。昔の道を登って、ふかふかのカラマツ林を抜けて、ハナイグチ、ムキタケ、ショウゲンジ、モミタケ、タマゴタケ、ハタケシメジ、籠いっぱいで戻ったぞ。クルミ、トチノミもよく集まった。稲は刈ったし、小豆、芋、雑穀も穫り入れた。畑も終わりだ、下の石垣直さっか。

港からのお客様には、蕎麦を打っておもてなし。ここの暮らしからは森と水を。平地の民からはたくさんの仲間を。流域守るフェアトレード。色の白いも黒いも何もない、男も女も関係ない、「乾杯!」と酌み交わせば皆兄弟。鹿も猪も、熊、テン、イタチ、イヌワシも、満点星空の下で皆兄弟。

キイチゴ、アケビ、キウイが好みの子どもらは、山の幸に恵まれて、市販菓子の味も忘れてしまった。虫歯など、一本もない。早川育ちは世界に散じ、宇宙ステーションからもビデオチャットで里帰り。「ばあちゃんの豆餅が食べたいわ」「そじゃ送らっか? お前、其処ぁ何処いえ?」。

よく積もった雪の下、テレビも映らん、ネットも入らん、そんなときゃ三味線弾けやれ、唄わざあ。昔ばなしにも華が咲く。畑の神、山の神、道祖神、正月様が化粧直し、オホンダレ様もにっこり。

味噌も仕込んだ、カエデの樹液も採り終えた。そろそろフキが顔を出す。タラ、コシアブラ、オオバラたちが芽を膨らませ、ワラビ、タケノコ、コゴミ、ウルイは足元から伸びてくる。

やまだらけの村々に山人の教え響きわたり、早川の谷にはいつまでも、同じ春がやってくる。地球が回転する音かのように四季が巡って、結が帰るように、山はぐるぐる歳を重ねる。 

そんな町に、僕らはしたい。

(『やまだらけシンフォニー』、上原佑貴、「広報はやかわ」令和3年6月号掲載)